その他雑記

SS小説「雨の日の習慣」

夕陽が見えるはずなのに、見えない。
あるのは真っ黒の雲とザーザーと降る大量の雨水だけ。

学校から歩いて15分のバス停。
面倒だなと思いながらも、私はこれしか交通手段がない。
傘をさしているはずなのに制服の袖やスカートの裾はじんわり濡れている。

雨の音を聞きながら屋内で読書をしたり音楽を聴くのは好きだけれど、移動時の雨は本当に最悪である。
濡れて気持ち悪いし、臭い。早く帰宅して湯気が立ちのぼるココアを飲みたい。

でも、それと同じくらい帰りたくない。

雨の日にだけバスに乗車する彼。
彼を見るために、私は凍えるバス停の屋根の下で本を読むフリをしながら待っている。
話したことは一度しかない。本をバスの中で落としてしまい、それを拾ってくれただけ。
「落としたよ。」
「ありがとう。」
会話ですらないのかもしれない。
学年別でネクタイのラインが色分けされている。私と同じ緑色のラインだから同級生なのは確かだ。
あとはクラスも名前も分からない。
しかし、姿形はちゃんと覚えているので、50m先でも彼だと分かる自信はある。
晴天の日にバス乗った彼は見たことがない。
きっと自転車なり徒歩なりの移動手段で帰宅しているのだろう。

落とした本を拾ってくれて以来、彼が目に入るようになってしまった。
なんだか気になってしまうのだ。
恋と言われればそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
ただ雨の日に彼がこのバスに乗ってくる。それを確認する。
まるで、今日の掃除当番の誰々はちゃんと掃除をしているなと確認するように。
別に話したいとも距離を詰めたいとも思わない。
このひんやりと濡れた体の気を紛らわせるためにしているような、いわば習慣みたいなものになってしまっていると思う。

今は梅雨の時期なので、よく雨が降る。
もちろんその日は彼を見つける。
しかし、その日だけは、彼は一人ではなかった。

ネクタイのラインが緑色の女子を連れていた。
「……」
それもそうか。
落とし物を拾ってくれてた優しき少年ならば、彼女の一人や二人いてもおかしくなないだろう。
逆に納得してしまった。
お幸せに、と思ってしまった。
それでも、雨の日に彼を見る習慣は根付いてしまった。少し申し訳ないとは思うけれど、見るくらい大目に見てほしい。

「うそでしょ!?信じられない、あたし降りる!さよなら。」

彼女(仮)がいきなり大声を出してバスを降りてしまった。
それに続いて彼も外へ吸い込まれていった。

「……?」

彼女じゃないの?
今後は余計に彼が目に入ってしまいそうである。